横尾忠則さん(撮影:岡本隆史)
生きることすべてが「遊び」だと話す、美術家で作家の横尾忠則さん。難聴や腱鞘炎などのハンディキャップも受け入れることで、自然に画風も変化していったと語ります。横尾さんがあまり悩まない理由は、もともと受け身な人間であったことと、若い頃のある《基礎》があるからだそうで――。(構成:篠藤ゆり 撮影:岡本隆史)

老齢は《いい湯加減》

週刊誌で旧友・瀬戸内寂聴さんとの往復書簡を連載していたんです。それが、瀬戸内さんが旅立たれ、1人で継続していたものが1冊の本になりました。

毎回、書くテーマがなくなると、編集者さんがお題を出してくれる。すると、瞬時に書けます。たとえば「カエルについて書いてください」と言われたら、カエルと僕との経験を書けばいいわけで。「予感とは?」とか「運命の流れに乗るにはどうしたらいいか」など、抽象的なお題も多かったけど、実はそのほうが書きやすいですね。

文章を書くのはとくに好きじゃないものの、苦になりません。ペン先に思いを預けると、すっと書けます。

社会に物申そうとか、文章で評価されたいなんて思うと、それに縛られて悩みが生まれる。でも僕は、書くのに目的も結果も考えないから。

そもそも、書くことに飽きているのかもしれない。もう、生きてること自体にもそろそろ飽きていますからね。(笑)

僕は2歳から絵を描いているので、87年間描いていると、絵にも飽きがきますよね。飽きるともう、「なんでもあり」って境地になる。そうすると制約がなくなるので、結局残るのは「自由」だけです。