運命に逆らわないのが、僕の生き方
もともと僕は受け身な人間です。けっこう年をとった夫婦の養子となって、可愛がられてなんでもやってもらっていたからなのか。
子どもの頃は郵便配達員になるつもりで、高校時代は「郵趣会」というクラブ活動を結成したくらいだけど、先生から美大を受けるようにと言われて「はい」。
ところが、その後退職して東京へ行かれた先生を頼って受験のために東京に行ったら、先生から「明日の美大は受けるな」と言われて。
そこでも逆らわずに、故郷に帰ることにしました。そして流れにまかせていたらグラフィックデザイナーになり、絵描きになった。運命に逆らわないのが、僕の生き方です。
これも運命なのか、2022年に心筋梗塞になった際は本当に痛くて苦しくて、不安の極致でした。そういう時、死の恐怖に襲われる人もいると思うけど、僕はその反対。この苦しみから救ってくれるのは死しかないと思いました。もう88ですから。この年になると、死ぬことは別に怖くないんです。
老齢になると執着や欲望から自由になるから、ますます楽になります。だから僕は、年をとることが面白くて、楽しくてしょうがない。無為でいられる今の人生は、なんだか《いい湯加減》みたいな感じです。
僕があまり悩まないのは、若い頃、本を読まなかったという《基礎》があるからかもしれません。本を読むと、本から得たことと自分を照らし合わせて悩みが生じるけれど、僕は本を読んでないから悩みが生まれようがなかった。
そんな人間が「私の書いた本」のコーナーに登場するなんて(笑)、そのズレが面白い。僕の本に関しては、「運命が書かせた本」というコーナータイトルのほうが、合っているかもしれないね。