※本稿は、大友直人著『クラシックへの挑戦状』(中央公論新社)の一部を、再編集したものです
思いきってコンサートで取り上げることに
2014年2月、佐村河内氏の代表作として知られていた「交響曲第1番(HIROSHIMA)」が実は新垣隆氏の作曲であったことが明らかになり、大きな「問題」になりました。問題になる前に私は同作品を演奏会で取り上げ、レコーディングもしていたことから、批判を浴びることとなったのです。
東京交響楽団で約20年にわたり100回以上のコンサートを展開した大友直人プロデュース東京芸術劇場シリーズの演目の一つとして、私がこの曲を取り上げるまでにはいくつかのプロセスがありました。私は日ごろから作曲家の有名無名や肩書きやプロフィールにかかわらず、自分の心の琴線に触れるかどうかを基準にさまざまな作品を紹介してきました。
このコンサートの2年程前でしょうか、ある日三枝成彰さんと雑談をしていると、三枝さんが当時審査員をしていた作曲コンクールの応募作品のなかに気になるものがあったというのです。「今どき珍しい交響曲というタイトルで、使い古された書法でつくられた長い作品だが、自分はなかなかいい作品だと思った。作曲家は何だか珍しい名前で覚えていないけど、そんな作品があることを頭の隅にでも覚えておいてよ」といったような内容だったと思います。
その後私自身そんな話を聞いたこともすっかり忘れていました。それから1年程が経ち、東京交響楽団のスタッフと次のシーズンのコンサートプログラムについて協議しているときに、担当者から「最近広島で初演された交響曲で評判になっている新作がある」という話を聞いたのです。作曲者の佐村河内氏という名前から、以前三枝さんが話していた作品のことを思い出し、早速楽譜を取り寄せてみました。かなり長い曲でしたが、しっかりした魅力的な作品でした。その際、佐村河内氏の耳が不自由であるという話も聞きました。
初演は広島で秋山和慶先生指揮の広島交響楽団で全三楽章のうち第一楽章と第三楽章のみの演奏だったようです。確かに第二楽章は少々弱い印象があったので、私も第二楽章をカットした二楽章構成の作品として思いきってコンサートで取り上げることにしました。