(左)越尾正子 (右)やなせたかし
やなせたかしさんと元秘書の越尾正子さん(著者提供)
現在放送中の、25年春のNHK連続テレビ小説『あんぱん』。モデルとなったのは、長年子どもたちに愛されるキャラクター「アンパンマン」の作者・やなせたかしさんと、妻の暢さん夫妻です。今回は、そんなやなせ夫妻に秘書として20年寄り添い、現在は株式会社やなせスタジオ代表取締役を務める越尾正子さんの著書『やなせたかし先生のしっぽ: やなせ夫妻のとっておき話』から、一部を抜粋してお届けします。

うちの人

漫画家やなせたかしの会社は、東京・新宿区内のマンション内にあった。各階にアトリエ、資料室や倉庫といった用途別に部屋があり、やなせ先生と奥さんのリビングがある自宅の一角が私の仕事場だった。自宅にはお茶室もあった。そこへ毎日通うことになった。

やなせ先生と奥さんのほか、先生のアシスタント二人と私の合わせて五人というアットホームな会社だった。以前は奥さんのお母さんも一緒に暮らしていたというが、すでに施設に入所していた。私が入社した時、先生は73歳、奥さんは74歳になっていた。

『アンパンマン』はすでにテレビ放映を機に大ブレイクしていた。

お茶のお稽古で週1回会っていた時にはなかったが、事務所で働き出すと、奥さんはよく「うちの人はね」と言ってやなせ先生の話をするようになった。