(写真提供:Photo AC)
内閣府が公表した「令和7年版 高齢社会白書」によると、令和5年の平均寿命は、男性が81.09年、女性が87.14年です。80歳以上の高齢者が増えるなか、93歳の評論家・樋口恵子さんは「楽しげに生きると決めると、いいことが始まる」と語ります。今回はそんな樋口さんの著書『93歳、あとは楽しげに生きる ヨタヘロな私の心得69』から一部を抜粋し、「幸せを呼び寄せるヒント」を紹介します。

ご機嫌な人ほど最強の“ケアされ上手”に

年をとれば、遅かれ早かれ介護が必要になるときがやってきます。そのときのために、“ケアされ上手”になっておくこと。

これは、ずっと以前から考えている私の課題でもあります。というのは、どうしたら“ケアされ上手”になれるのか、少し前まで案外自力でできることが多かった私は、今ひとつピンときませんでした。

ここで、ふたりの方の例を紹介しましょう。

まず、Aさん。明治生まれの女性で、90歳をすぎて娘さんの家族と同居することになりました。夫が他界したあとはひとりで暮らしてきましたが、介護が必要になり、娘さんが同居を申し出たのです。

Aさんは同居のあいだ、訪問看護や訪問介護、デイサービスといった公的なサービスを受け入れながら、106歳で亡くなるまでの15年間、「命令しない」「反対しない」「不足を言わない」「小言を言わない」「怒らない」という5箇条を通したというのです。

自分を律する精神力のなんと強いことでしょう。この方は神様みたいな人だと思いました。明治生まれと言えば、家制度の価値観を強く刷り込まれた世代です。自分の家ではなく、娘さんの嫁ぎ先でお世話になるという状況もあったかもしれませんが、愛する娘さんにも一定の距離を置いていたのはまねのできないことです。

私は、ある時期、介護体験記の選者をしていました。Aさんのことは、最優秀賞を受賞した娘さんの体験記で知りました。