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阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。テレビ創成期であった阿川さんの子ども時代、多くはアメリカから輸入した番組だったそうで――。
※本記事は『婦人公論』2025年5月号に掲載されたものです

かつてテレビは家庭において車やステレオ同様、大事にされていた。たいてい客間と呼ばれるいい部屋の真ん中に置かれ、画面にビロード製のカバーがかけられて、観るときだけカバーをはずし、ほこりがつかないよう大切に取り扱われたものである。まるで幕が上がると別世界が現れる劇場のように、その箱には夢のような物語がいっぱい詰まっていた。もしかしたら箱の裏側に出演者が隠れているのではないかと疑って、テレビの後ろを叩いたりさすったりしたこともある。

実際、テレビ創成期であった私の子ども時代は夢のような番組が多かった。なにしろ日本のテレビ局はまだ番組制作に熟練していなかった。だから多くの番組は、テレビ先進国であったアメリカから輸入したものだった。

おかげで私たちはテレビを通じてアメリカ文化を目の当たりにした。『ベティちゃん』、『ポパイ』などのアニメを始め、アメリカのホームドラマには、シアワセに満ちた家庭の光景がぞんぶんに映し出されていた。『パパ大好き』、『うちのママは世界一』、『名犬ラッシー』などはその最たる番組だった。