「当時はこの状態がおかしいとは思ってなかった。自分が悪いんやから、しばかれても仕方がない。子どもってどこのうちもこういうもんなんや、と考えて」(撮影:帆刈一哉)
「親父にもぶたれたことないのに!」。アニメ『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイのこの名ゼリフの物まねでブレイクした芸人・若井おさむさん。しかし、自身は家族から壮絶な虐待を受けて育ち、一度もこのセリフに共感したことがないといいます。(構成=平林理恵 撮影=帆刈一哉)

優秀な兄と比較され、怒鳴られしばかれて

小学生のころから「死にたい」「僕なんか生まれてこなければよかったんや」と思いながら生きてきました。僕は、家族から暴力を受けながら育ったんです。母は兄にばかり愛情を注ぎ、僕は何をしても怒られた。

最初の記憶は幼稚園のときです。おもらしをした僕を怒鳴りつけながら、マッチで僕のお尻に火をつける母。ビンタされ、グーでどつかれ、「ずっと立っとけ」とトイレにとじこめられました。父は仕事ばかりで、家の中で顔を合わせることがあまりなかったんやけど、やはり暴力をふるいましたね。

兄からもやられっぱなしでした。兄は優秀だったんやけど、僕はあまり勉強しなかった。それで、中2のときかな、通知表の成績がオール3くらいだったんです。そしたらそれを見た兄に怒鳴られ、しばかれて。

だいぶあとになってから、「僕は虐待されてたんや」と気づくんですけど、当時はこの状態がおかしいとは思ってなかった。自分が悪いんやから、しばかれても仕方がない。子どもってどこのうちもこういうもんなんや、と考えて。近所に母方のおじいちゃん、おばあちゃんが住んでいたのですが、家でそんな目にあっているということは、一言も喋らなかった。

学校の先生も味方になってはくれませんでしたね。家で棒みたいのでバーンとつつかれてケガをしてしまい、学校でも痛くて泣いていたことがあるんです。そんな僕を見て先生が、「コケたくらいで泣かんときや」と一言。明らかにコケてできた傷ではないのに。

あまりに僕に対して厳しい母を見かねたのか、父が「おさむがかわいそうやないか」と一度だけ味方してくれたことがありました。そしたら母は激怒して、以来両親はめちゃくちゃ不仲になってしまった。