(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
2016年に逝去された登山家・田部井淳子さんは、女性初のエベレスト登頂を成し遂げたことで知られています。今回は、田部井さんがこれまでの出来事をエッセイとして書きまとめた著書で、2025年10月公開予定の映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」の原案本ともなった『人生、山あり“時々”谷あり』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。

毅然とした隊長

70年にアンナプルナIII峰に登ったときは、アタックメンバーを誰にするかで揉めに揉めました。

「何であなたが行けて、私が行けないの」ということになり、隊長の決定に対して不満が噴出したのです。

すると、隊長はメンバーを選んだ理由を噛んで含めるように説明し、一人ひとりを説得して回りました。

その毅然とした様子を見て、私は穴があったら入りたい思いでした。副隊長の私は、隊長にも隊員にもよく思われたいと思い、八方美人に振る舞っていたからです。