詩人の谷川俊太郎さんが、2024年11月に92歳で他界されました。その活動は多岐にわたり、詩作のほか、児童文学の翻訳、アニメ『鉄腕アトム』主題歌の作詞なども手がけ、作品は多くの人に親しまれています。娘の志野さんが親子の貴重な思い出を語りました。(構成:篠藤ゆり 撮影:洞澤佐智子)
急いで帰国、病院へかけつけた
兄(作曲家・谷川賢作さん)から電話があったのは、昨年11月7日。ニューヨークで環境関連の仕事をしている私は、カナダのトロントで会議中でした。
兄が電話をかけてくるなんて滅多にないことでしたから、これは緊急事態だとピンと来て。席を外してかけ直すと、「俊太郎さん、ちょっと危ないみたい。僕は仕事で中国に行かなきゃならなくて」と言うので、会議をすべてキャンセルし、すぐに日本に向かったのです。
それまで俊太郎さんは、体調が悪くなっても「病院には連れていかないでくれ」と言っていました。俊太郎さんの母(多喜子さん)が延命治療を受け、意識がないまま2年ほど病院で過ごしたのを見ていたので、自分はそうなりたくないと思っていたようです。
ですから、入院したと聞いてさすがに危ないのだな、と。空港から病院に直行すると、集中治療室で意識が朦朧(もうろう)としている状態でしたが、「志野だよ。帰ったよ」と言うと頷いてくれました。