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現代人の多くが当たり前のように送っている「靴生活」。しかしその便利さの裏で、腰痛や膝痛、さらには外反母趾や転倒リスクといった健康トラブルを招いていることをご存じでしょうか。山陰地方で呉服店・和想館を経営する和と着物の専門家である池田訓之さんは「日本人が長らく親しんできた草履や下駄には、足指を使い重心を整えるという本来の身体機能を取り戻す力がある」と話します。靴生活の注意点や草履や下駄を履くメリットについて池田さんに解説いただきました。
*医療情報監修:大野原良昌さん(医学博士、母と子の長田産科婦人科クリニック・副院長)

 靴生活がもたらす健康へのリスク

厚生労働省が実施した「令和4年 国民生活基礎調査」によると、日本人の自覚症状のトップは男女ともに腰痛となっています。その原因の一つが、実は履物の変化にあると言われています。

現代の日本人は草履や下駄を履く生活(以下、鼻緒生活)を離れ、靴生活にどんどん移行しました。この靴生活が腰痛をはじめ膝痛、足指痛などのリスクを高めているのです。

靴はクッション性が高いため、どうしても、踵から着地する「かかと重心」になりがちです。重心がかかとに偏るということは、足の前部分の重心が浮き、足指に力が入っていない「浮き指」を引き起こしやすくなります。

後ろに重心がかかるということは、お尻を後ろに引いた状態になり、バランスをとるために、頭を前に突きだそうとします。ちょうど横から見ると、ひらがなの「く」の字のように体が前にかがみ、猫背になるのです。

膝も、腰がいつも曲がった状態で体の重さを支えていることになるので、負担が大きく、膝痛、腰痛を招くことになります。

靴生活をずっと続けている欧米の方は、一日中靴を履き続けるので、自分の足にあった靴を履くことを心がけておられます。かたや日本人は、家の中では靴をぬいで外では履いてと、靴の着脱を何度も繰り返すので、着脱がしやすい靴を選びがちになります。

例えばハイヒールは、着脱がしやすいうえに、踵が高くて先端は細くとがり気味。背がスラっとして足は小さく見えてかっこよく映えます。

しかし先端にむかって指が押し込まれて、親指の納まるスペースがなく、人差し指の上に乗っかるような形になり、だんだん曲がっていきます。親指が内側に曲がるので、その付け根は外側に飛び出してきて靴の側面に当たり、痛みを感じるようになります。

これがいわゆる”外反母趾”という症状です。痛みがひどいと飛び出た部分の骨を削るという手術が必要になります。

また、指が使えていないので蹴る力は弱く、足腰も弱くなり、転倒の原因になります。ちなみに寝たきりになる原因の12%が転倒からだと言われています。