一人芝居『MITSUKO―ミツコ 世紀末の伯爵夫人』の舞台に立つ吉行さん(1992年)
女優の吉行和子さんが2025年9月2日に逝去されました。享年90 。吉行和子さんと半世紀にわたる深い親交のあった、エッセイストの関容子さん。初舞台から観ているという吉行さんの女優としての歩み、そしてプライベートでの交流を綴ります

別れ際に「また会いましょう」と

和子さんに初めて会ったのはずいぶん前のことになる。私が雑誌記者になったのは憧れの吉行淳之介に会いたかったからなので、まずは何か理由を見つけて妹の和子さんに会いに行った。

終始にこやかではあるものの、滅多なことでは心の扉を開かない印象だったが、別れ際に「また会いましょう」と言ってくれたので、お酒お強いですか? と訊くと、「兄と違って私はダメなの」と言い、私ががっかりするのを見て取って「あら、飲めなくたって、遊べるわよ」。

それで歌舞伎にお誘いして、当時お元気だった名優十七代目勘三郎(亡くなった十八代目の父)の楽屋を訪ねたのが、昭和50年代のこと。

和子さんが、「私は喘息持ちなので、芝居中にいつ咳が出るか、怖いんです」と言うと、中村屋は手を振って、「いや、そんなのちっとも気にすることないよ。その役で咳をすればいいんだから」。この言葉で和子さんの気持ちがずいぶん楽になったとかで、その後持病もかなり治まった、と感謝された。

ある時、和子さんに取材で会っていたら、「今日は兄が帝国ホテルに缶詰になってるので、夕方お鮨をご馳走してくれるそうだから一緒に行きましょう」と誘ってくれたりして、だんだんと友達になっていった。