和子さんの当たり役

和子さんに転機をもたらしたのは、昭和44年、唐十郎の『少女仮面』への出演依頼だった。

唐さん手書きのコピーを綴じたペラペラの台本を、早稲田小劇場の鈴木忠志さんから渡されて、何もかもが新鮮に映り、すぐに民藝を退団して飛び込んだ。この時、風変わりな老女役の白石加代子さんと共演し、和子さんは白石さんより年上なのに、老女に翻弄される少女役だった。

中で唄を歌わされる場面があり、和子さんが歌い始めたら「ひでえなあ」と声がかかり、でもやめずに歌い終えたら、あの絶対褒めない演出家の鈴木さんから、「あんな野次を飛ばされても、やめなかったのはすごい」と褒められたそうだ。和子さんはこの時ずいぶん強くなっていたと思う。

私は残念ながら『少女仮面』は李麗仙さん出演のしか観ていないが、和子さんの唄は一人芝居『小間使いの日記』の時に聴いた。やはりうまいとは言えないけれど、感じは悪くなかった。

ずっとのちにNHKの朝ドラ『ごちそうさん』のナレーションの依頼があって、「私は声がよくないから」と断ると、「いいんです、ぬか床の声ですから、ですって。失礼ね」と笑っていたが。