人間不信の少女が演劇と出会って
和子さんは病弱な子供で、でも喘息は発作が治まるとケロッとしてしまうので、身体検査の日に「あなたよく休むそうだけど、どっこも悪いとこありませんよ」とお医者に言われたことから、人間不信が始まったのだという。
その暗い少女と演劇との出合いは、女子学院の中学3年の時。母親のあぐりさんが美容室のお客様から劇団民藝のチケットを2枚もらった。で、たまたまそばにいた和子さんを連れて観に行った。その時の芝居は『冒した者』(三好十郎作)で、奈良岡朋子さんが原爆少女の役だった。
「部屋にこもってずっと一人芝居みたいなことをして遊んでたのを、こうして何人かで演じて鮮やかに物語を伝えるってすごい! ああ、劇団に入りたい、って、そこに私はすぐ結びついちゃうのよ」
本当に、亥年生まれの和子さんの猪突猛進ぶりを、私は何回見せられたことだろうか。
高校2年の時、民藝の研究生募集があって、和子さんは応募する。
朗読のテストで、一行読んだら「もういいですよ」と老婆役の名女優、北林谷栄さんに遮られた。「何か歌って」と言われて、蚊の鳴くような声で歌ったのが「春の小川」。リズム感のテストも棒立ちだったそうなのに、なぜか合格する。