大学教授を定年前に退職した作家の三砂ちづるさん。竹富島に移住し、65歳にして初めての一人暮らしに挑んでいます。人口330人、娯楽施設はもちろん、買い物ができる店もない「不便」な島。ですが、年間25もの祭事・行事がある島での暮らしは、つねに神様とともにあり、島の人たちとの深い人間関係にも守られています。島での移住最初の1年を綴った著書『竹富島に移住して見つけた人生で大切なこと』より、一部を抜粋して紹介します。
一日ひとつ
2024年4月から始まった八重山の離島暮らし。家を建てての、65歳での、一からの移住なので、一日にひとつ、小さなことでも、何か新しいことを学べたら「上等」、と思って暮らしている。
この「上等」というのが、また、沖縄の言い方である。「いいね」とはSNS上であまりにありふれた言い方になってしまっている今であるが、この、いいね、より、もっと、心がこもっている感じが「じょうとう」なのである。
で、一日ひとつずつ学んだら、上等。先日学んだのは、「ポストが機能している」ことであった。郵政関係者は、当たり前とおっしゃるであろう。
日本全国、赤く塗られてポスト、として置かれているものは、たとえ郵政が民営化したとはいえ、いかに保険のあれこれでトラブルを起こしたとはいえ、ポストは機能しているものだ、と主張なさるであろう。
ポストは、ポストであり、そこに投函されたものは世界中に届けられる。これって本当にすごいことだ。
まだSNSとか、海外とでも無料で永遠にビデオ通話ができる、とかが、夢のまた夢であった頃、そんな昔ではなくて、今60代の私が20代とか30代だった頃、遠く離れて外国に住むと、意思伝達の手段は手紙しかなかった。
ロンドンからブラジルへ、ブラジルからザイール(当時)へ、日本からネパールの山奥へ、手紙は届いた。いつ着くかわからない、と思いながら投函しても、ほとんどのものは無事に届いた。
どれほどの人の手がこの一通を届けてくれたのか、と考えるだけで胸が熱くなったものだ。ついこの間のこと。