(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
厚生労働省の「簡易生命表(令和6年)」によると、2024年の日本人の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.13歳だったそうです。そんななか、長年高齢者医療に携わる精神科医・和田秀樹先生は「高齢者を専門に診る精神科医をしていると、死ぬ間際や死が近づいたと自覚したとき、しみじみ後悔の声を聞かせてくださる患者さんが多い」と語ります。今回は、和田先生の著書『医師しか知らない 死の直前の後悔』より、後悔しない人生を送るための方法を一部ご紹介します。

胸の奥に深く刻まれた光景

かつて私が高齢者医療の専門病院に勤務していたとき、胸の奥に深く刻まれた光景があります。

個室のベッドに、ひとり静かに横たわる高齢の男性。かつては、名の知れた大企業の幹部として時代を動かしてきた人物でした。

立派な経歴を持ち、経済的にも恵まれていたその方を見舞うのは、ただひとり、奥さまだけ。友人も知人も後輩も部下も、誰ひとりとして姿を見せません。他の家族や親族が来ることもありませんでした。

無機質な病室のなか、テレビの音だけがかすかに流れ、医師や看護師が訪れるとき以外はただ時間が静かに過ぎていく。その空間に彼の不機嫌そうな顔だけがぽつんと浮かんでいました。その表情の奥にどれほどの孤独や寂しさが潜んでいたのか、私には知ることはできません。ただ、その光景が胸に深く残ったのです。

私はこれまで、40年近く高齢者専門の精神科医として6000人を超える方々と向き合ってきました。そのなかには、彼のように高い社会的地位を極めた方々も少なくありませんでした。でも、そういう方の多くは、入院中の見舞い客はほとんど来ないことに気がつきました。

その一方で、病院の大部屋に毎日のように誰かが訪ねてくるお年寄りもいます。

けっして裕福ではなく、とくに権威のある肩書きを持つわけでもない。けれども、家族や友人、知人、かつての同僚や部下たちが、ひっきりなしに顔を見せに来る。病室には自然と笑い声が広がり、そこに温かな時間が流れていました。

なかには、認知症が進んで意思疎通も難しい状態でありながら、それでも会いに来る人が絶えない、元大臣の方もいました。その患者さん本人は、もうだれが来たのかもわからないぐらいの状態になっているのに、有名な政治家がわざわざ見舞いに来ていて、ひそかに驚いたこともありました。もしかしたら、若いころにその患者さんにお世話になったことがあって、最後のご挨拶に訪れていたのかもしれません。