後悔の声
また、さまざまな人の晩年を見てきたことが私の人生観や生き方を大きく変えたのは間違いありません。高齢者を専門に診る精神科医をしていると、死ぬ間際や死が近づいたと自覚したとき、しみじみ後悔の声を聞かせてくださる患者さんが多いのです。
「本当に仕事漬けの人生だった。もっと家族と旅行に行って、たくさん思い出をつくっておけばよかった──」
「子どもたちに反対されて再婚をあきらめてしまったけれど、やっぱり再婚しておくべきだった──」
「子育てが終わったら、今度は親の介護。ようやく解放されたと思ったら、体はもうボロボロ。自分の人生を送ることができなかった──」
私の前で、そんなふうに語る高齢者たちの姿が今でも脳裏に浮かびます。患者さんが亡くなった後に、ご家族から「母が生前、こんなことを言っていたんですよ」などと打ち明けられることもあります。
人生の終わりが近づいたとき、人はようやく自分の人生に問いを投げかけるのかもしれません。
私たちは普段、自分の人生について振り返る時間を持たないまま忙しく日々を過ごしてしまいがちですが、誰かが歩んできた道に目を向けてみれば自分のこれからが少し見えてくることもあります。先人たちの後悔に耳を傾けることで、今この瞬間の選択を変えることができるのです。ですから、これらの言葉は今を生きる私たちがこれからの人生をよりよくするためのヒントでもあります。
とくに、人生の折り返し地点を迎えた中高年の読者にとっては、これからどんな選択をし、どう生きていくかを考えるうえで、きっと大きな指針となるはずです。
※本稿は、『医師しか知らない 死の直前の後悔』(小学館)の一部を再編集したものです。
『医師しか知らない 死の直前の後悔』(著:和田秀樹/小学館)
「もっと家族と旅行に行けばよかった……」
長年高齢者を見てきた著者が語る、後悔しない人生の処方箋。





