人生の本当の豊かさ

若いころは、誰もが「勝ち組になりたい」と思うものです。

けれども、多くの高齢者から語られる本音に耳を傾けていると、人生の本当の豊かさは必ずしもそこにはないのだと気づかされます。

(写真提供:Photo AC)

組織で出世することや、社会的地位を手に入れることが本当に幸せにつながるのだろうか──私自身もそうした疑問を強く抱くようになり、いろいろ考えた末に37歳で病院を辞職しました。高齢者との対話のなかで、人生で本当に大切なものは何なのか、フリーの人間になって見つめ直したくなったからです。

また、いくら地位を手に入れても、それはある年齢までの話で、それを一生守り続けることはできません。ならば、地位を目指すよりも、人に親しまれて慕われるような存在になりたいと思うようになりました。

私自身の性格も、徐々に変わってきたと思います。進学校である灘中学・高校から東京大学の医学部に進みましたが、正直言って若いころはプライドばかりが高く、鼻持ちならない性格だったと思います。けれども、高齢専門の精神科医として普通の精神科医が考えないようなことを考えさせられるなかで、「やはり人から嫌われるようなことはしないほうがいい」と強く実感するようになり、そこから考え方や生き方も大きく変わっていったのです。