少し苦みがある春の野菜チコリエ(チコリ)(写真:『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』より)
2026年2月6日から22日まで、ミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックが開催されています。開催国であるイタリアは、食をテーマに掲げた万国博覧会が開催されるなど、地域に根ざした食材や伝統の料理法が受け継がれた<食の多様性>が魅力の一つです。そこで今回は、龍谷大学政策学部・大石尚子教授の著書『イタリア食紀行-南北1200キロの農山漁村と郷土料理』から一部を抜粋し、その魅力に迫ります。

ランチは家でマンマの手づくり

日本のビジネス街では、昼時になるとオフィスワーカーで飲食店は一気に満員になる。イタリアでは、馴染みのない光景である。そもそもビジネス街に飲食店がそれほど立ち並んでいない。ミラノのような大都市は別だが、地方都市では、多くはいまだにランチを家に食べに帰る。日本のように2時間かけて通勤してくる人も少なく、職住近接しているからだ。

学校も授業は遅いお昼までである。子どもたちは家に帰って食事をとる。そのため、学校の周りの道路は、子どもを迎えにくる親(祖父母のことも多い)の車で渋滞が起きる。イタリアでは、道の混雑が、朝夕の通勤・帰宅ラッシュに昼を加えた3回あるのだ。それほど昼は、家にご飯を食べに帰る人たちが多い。

もちろん、イタリアでもファストフードや中食は増えている。特に都会の若い人たちは調理済みのランチを電子レンジでチンすることもある。しかし、地方では、ランチはマンマが家族の料理をつくって待っている。マンマは、子どもたちの帰るタイミングに合わせてパスタを茹でる。連絡なく帰宅が遅れると、「どうして連絡しないの? パスタが伸びちゃうよ!」と怒られること必至だ。

イタリア人はパスタに関しては、茹で加減や入れる具材の種類にこだわりが強い。それぞれの家庭や地域によってレシピが微妙に違う。出身地の異なる者同士が、パスタのつくり方談義で盛り上がる場面に出合うのも珍しくない。家庭にそれぞれの味があると同時に、地域の味がある。地域の食材と料理法とは切っても切り離せない関係にある。場違いの具材を入れたりすると、それはもはやその土地の料理ではなくなってしまう。

ローマの伝統パスタ、カーチョ・エ・ぺーぺは、黒胡椒とペコリーノチーズだけのシンプルな一品である。たっぷりと削ったチーズを茹であがったパスタと和える。熱と水分でチーズがほどよく溶けてパスタに絡む。この手軽に調理できるパスタは、カルボナーラと並び、ローマの代表料理である。カーチョ・エ・ペーペにカルボナーラのようにパンチェッタを加えれば、別物になってしまう。「ちょっとパンチェッタを足したら、もっと美味しくなるのでは」と思うのだが、ローマ人はそのルールを崩さない。チーズも、牛ではなく、羊のミルクでつくったペコリーノチーズが定番だ。