
正面玄関横に設置された「雀の巣」のモニュメントが多くの来店客から愛されている、福来屋日本橋本店。親しみやすいデパートで、食品から衣服、日用品、貴金属など様々なものを扱っている。この福来屋に今日もまた、何かを買い求めるお客さんが足を運び――。
デパートを舞台にした、彩瀬まるさんのWEB連載小説、お楽しみください。 夏休みや年末年始などの長期休暇には、埼玉に暮らす父方の祖母の家を訪ねるのが傑の家族の習慣だった。傑が赤ん坊の頃にすでに祖父は亡くなっていて、祖母は趣味の畑を耕しながら二匹の猫と一緒に暮らしていた。
猫の名前は、黒豆ときなこ。名前通りの黒猫と茶トラ猫だった。どちらも元々は地域猫で、耳に不妊去勢済みであることを示す切れ込みが入っていた。
二匹とも穏やかで、落ち着いた性格をしていた。祖母に手を添えられて温かい毛並みに触れた幼児の頃の記憶が、傑にとってもっとも古い記憶として意識に残っている。猫たちは傑が触れると少し迷惑そうに目を細め、しかし動かずにその場に座っていた。二匹は祖母になついており、もしかしたら飼い主の家族だと理解して、幼子の相手をしてくれていたのかもしれない。
傑は、二匹のことはきらいではなかった。むしろ好きだった。祖母の家の居間でくつろいでいると、ときどき猫たちは近くにきて体をくっつけて座ってくれた。服ごしに伝わるぬくもりは気持ちよく、緊張しつつも、うれしかった。
ただ、物心つく頃には、傑は祖母の家でうまく寝つくことができなかった。古い日本家屋の暗さ、使い慣れない寝具の肌触り、他にも眠りにくさを感じる要因はいくつもあったが、なによりも猫の気配が近くを通るたび、傑はふっと覚醒し、ついつい枕から頭を浮かせた。なぜ目が覚めるのか、自分でもよくわからなかった。
もしかしたら自分は、小さな生き物が苦手なのかもしれない、と気づいたのは小学四年生のときだ。
