
七
十二月二十七日の朝、年末を彰化の家で過ごすという朝子と紅を見送ってからハルは荷物をまとめた。
『黒猫』に記事がでればハルの正体はたぶんあきらかになるだろうし、そうでなくてもこれだけすぐ近くに住んでいるのだから、あっというまにハルを見かけた学生から噂が広まるだろう。いくら不良娘たちとはいっても、朝子も紅も嘘をついたハルを許してくれないかもしれない。
――もう化け込み記者なんて二度とごめんだ!
心のなかでそう叫んで、二ヶ月間過ごした部屋の扉を閉めた。
校門の横のベンチに、家に帰るといって早朝にでたはずの秀梅が座っていて、ハルはどきりとした。カフェーダイヤに秀玲がいるということがわかったのに、ハルはそのことをまだ伝えていなかった。
ハルがなにをいおうか考えていると、秀梅が先に口を開いた。
「これでお別れなの?」
ハルは、小さくうなずく。
秀梅は、そう、とさみしそうな顔をして、下を向いた。長いまつ毛が美しくして、ハルははじめて音楽室で秀梅を見たときのことを思いだした。
「元気でね。よかったら『黒猫』編集部に手紙をちょうだい。あたしも、秀梅に伝えなきゃいけないことがあるから、手紙を書くわね」
突然、秀梅は顔を上げると、ハルに駆け寄って、ぎゅっと抱きついてきた。すぐにしぼりだすような声がきこえた。
「ありがとう。姉さんになにがあったのかわかってよかった。ハルさんのおかげよ。ひどいことたくさんいっちゃったけど、わたしのこと許してくれる? ずっと友だちになってほしかったの」
まったく予想もしなかった秀梅の言葉に、ハルは強く感情を揺さぶられた。肌寒い風が吹き抜けていって、ハルは優しく秀梅の背中をさする。
「あたりまえじゃない! もう友だちでしょ」
軽く鼻を啜って秀梅は、さみしくなるなあ、とぽつりといった。
「『黒猫』編集部で待ってるわ。でも、橋の向こうだし、卒業してからね」
秀梅は、首を横にふって、精一杯の笑みを浮かべる。
「……年明けすぐにでもいっちゃうから」
秀梅の感情の波から逃れるように、ハルは、退学になるわよ、と冗談をいって歩きだした。すぐに後ろから啜り泣くような声がきこえてきた。
校門をでたところで、ハルはふりむいた。泣いている秀梅が見えた瞬間、感情が抑えられなくなって、ハルはベンチまで駆け戻る。鞄からだしたハンカチで秀梅の頬をぬぐった。
「手紙でって思ってたけど、やっぱりいうわね。あたし、秀玲さんをみつけたの。市内のカフェーにいる。あなたって向こう見ずなところがあるから、学校の決まりを破ってでもすぐに会いにいきそうだし、どうやって伝えようかずっと迷ってたのよ」
涙でぐしゃぐしゃだった秀梅の顔がぱあっと明るくなった。
「わたしを慰めるための嘘なら絶対許さないわよ」
「あたし、嘘は下手くそなの。秀玲さんがどこのカフェーにいるか教えてあげる。でも、会いにいきたいときはまず手紙をちょうだい。下手したら退学かもしれないし、ひとりでは絶対にいかないで。同居人の玉蘭も変装の手伝いをしてくれるから」
秀梅はハルのハンカチでもう一度頬をぬぐってから、その髪型にされるのごめんだわ、と意地の悪い笑みを浮かべた。
