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阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。前回から続くイタリア高齢珍道中。阿川さんが昔、テレビ番組のアシスタントを務め始めた頃、年末になるたびボスから発破をかけられていたそうで――。
※本記事は『婦人公論』2026年3月号に掲載されたものです
※本記事は『婦人公論』2026年3月号に掲載されたものです
「来年こそ、一人前になれよ」
テレビ番組のアシスタントを務め始めた頃、年末になるたびボスから発破をかけられた。
「はい!」
敬礼をしながら力強く答えるものの、結局、何年経っても一人前になることはなく、そのうち番組自体が終了した。
そもそも一人前になるということがどういうことかわかっていなかった。いつか自分自身が、「ああ、私も一人前になったなあ」と認識するときがくるのだろうか。そんな日は生涯訪れないのではないかと疑っていた。
社会に出て仕事を始めたのが遅かったせいもある。人より十年出遅れた。歳下の若者が私の師匠になった。だからといって焦ったことはない。どうせシロウトだ。長くは続くまいと思っていたから、向上心もプロ根性もなかった。
怠けていたつもりはない。向上心はないが、怒られるのは嫌いだった。一度、引き受けた仕事は、上司や依頼者に怒られたくないがため、それなりに必死にやった。でも、その仕事に対して、これぞ私の天職、自分が望んでいた道だと覚醒したことは一度もない。
