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ライター・しろぼしマーサさんは、企業向けの業界新聞社で記者として38年間勤務しながら家族の看護・介護を務めてきました。その辛い時期、心の支えになったのが大相撲観戦だったと言います。家族を見送った今、70代一人暮らしの日々を綴ります。

コーヒー自慢の店でトイレをほめた

私は先日73歳の誕生日を迎えたが、よく生きてこられたと思う。私が40歳の時に父が難病に倒れ、隠していた借金が明らかになり、私の人生は変転した。その後、認知症の母、統合失調症に認知症が加わった兄も抱えて、働いてきた。家族は全員亡くなったが、まだ問題が山積していて、誕生日を喜んで祝える心境ではない。

だが、誕生日のケーキは食べたいので、前から行きたかったレトロな外観の店に1人で入った。注文したチョコレートケーキとコーヒーは、好みの味だった。そして、トイレもレトロな感じで気に入った。個室の外の洗面台は蛇口(水栓)のカーブが美しく、花が開いた形の陶器製の洗面ボウルには水色の模様があった。

帰りのレジで、「素敵なトイレですね」と話すと、店長らしき女性が、「トイレをほめられたのは初めてです。コーヒーやカップは良くほめられるのですが……」と、笑顔で言った。

私の若い頃のトイレ評論の癖が出てしまったのだ。

40歳まで、私はあちこちのトイレを見るのが趣味だった。業界新聞社の記者をしている時、大企業に取材に行くと、必ず帰りにそのビルのトイレに入り、点数をつけていた。

ホテルの会場で記者発表があると、帰りにトイレに入りランク付けをした。

私の趣味を知っている人たちは、「あそこのトイレは良かった」、「あそこは珍しかった」と教えてくれ、わざわざ見に行った。一緒に食事をしていると、「この店のトイレを見てこなくていいの?」と気を使ってくれる人もいた。