(写真提供:Photo AC)
6月は、LGBTQ+の権利を啓発する活動・イベントが世界各地で実施される「プライド月間」です。認定NPO法人ReBitが行った「LGBTQ子ども・若者調査2025」によると、中高生の約9割が「学校で困難やハラスメントを経験した」と回答したそう。そのような中、出生時の性に違和感を抱く「性別違和」の状態にある子を持つ小児科医の松永正訓さんは「現在も光(仮名)は多くの生きづらさを抱えている。でもその中で自分にしかできないことを見つけ、生きるための基盤を作ろうとしている」と語ります。そこで今回は松永さんの著書『性別違和に生まれて-父と子で綴った23年』より一部を抜粋してお届けします。

中学校で行き詰まる

入学式で校長先生が、私たちの子どもである1年1組の光が性別違和という特性を持っていることを説明した。身体と心が一致していない子という説明だった。あとになって分かるが、入学式に参加した保護者たちはこのことをよく覚えていたようだ。妻が保護者会で学校に行ったとき、保護者たちは誰も妻に話しかけてこなかったからだ。どう声をかけたらいいか分からなかったのだろう。

光は新しい教室に足を踏み入れた。だが、クラスメートたちは何の反応も示さなかった。それはそうだろう。つい、この間までは小学生だった子どもたちだ。性別違和の子を受け入れようと言われても理解が追いつかないだろう。

光は、性別違和を学校が公表することに対していい気分ではなかった。しかし、これだけ学校側に配慮してもらったのだから、何か問題が発生したときのために公表しておくのは仕方ないという気持ちだった。光が望むことは、「トランスジェンダー男子として」ではなく、「完全な男子として」周囲に受け入れられることだった。身体も心も女だとは思われたくなかった。徐々に分かっていくが、生徒の中には「この学校に性別違和の子がいる」という学校からの説明を覚えている子もいたし、完全に忘れてしまった子もいた。

光は男の子として中学校生活を始めた。私は入学記念にMacBook(アップル社のノートパソコン)と液晶タブレット、クリップスタジオというイラスト作成ソフトを買い与えた。MacBookの使い方を説明しようと思っているうちに、光はどんどん独学でイラストを描き始めていた。