何事もなく友人と会えることを願いながら、こちらに来る人を見ていると、20代の頃の待ち合わせの記憶がよみがえって…(写真:stock.adobe.com)
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スマホがなかった時代

その日、私は友人との待ち合わせ場所に向かうため、電車に乗っていた。同年代の友人とは半年に一度くらいの頻度で会うことにしている。

あと30分で駅に着くというタイミングで、私は友人に連絡するためバッグに手を入れたが、指先がスマホに触れない。慌ててバッグの中を覗き込んだが見つからず、そのときになって、電車の発車時刻を調べた後、自宅のテーブルの上に置き忘れたことに気づいた。

今どきスマホを持たずに外出なんて……。一気に不安になり引き返そうとも思ったが、友人を長時間待たせることもできず、そのまま向かうことにした。

電車を降りた後は急ぎ足で向かったので、約束の時間より早く到着。何事もなく友人と会えることを願いながら、こちらに来る人を見ていると、20代の頃の待ち合わせの記憶がよみがえった。

当時、私はとある小さな喫茶店を待ち合わせ場所にしていた。目立たない場所にあり、店の扉を開けるとベルの音がして、人が入ってくるのがわかる。

私は、入ってきた人が待ち合わせ相手を見つけたときの笑顔が好きだったので、なるべく扉が見える席に座り、次は私の番かもと胸を弾ませていた。

ある日、いつものように待ち合わせをして扉のほうを見ていたが、いつまで経っても友人はやってこない。1時間が過ぎた頃から、期待は失望に変わっていった。周りからは会話や笑い声も聞こえ、一人の私は居心地が悪くなるばかり。

2時間が過ぎた頃、とうとう私は席を立った。帰宅後、その夜は寝つけずにいたが、翌日になって相手が急な残業になってしまったことがわかり、少しは心が晴れたのだ。

スマホのない時代だからこその待ちぼうけだったと、懐かしむ私の目に、笑顔の友人の姿が入ってきた。一気に現実に戻った私は友人に駆け寄り、スマホを忘れたことを伝える。

その後はいつものように再会を喜び、楽しい一日を過ごした。思いがけず、若い頃のほろ苦い思い出を連れてきてくれた出来事だった。

 


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