「ちょっと待って」「え、わからん」などと呟き、二人とも服の袖をまくり始める。色白なみのりの腕は新鮮な大根みたいに無毛でつるりとしていた。圭子の腕はみのりよりも橙っぽさがあり、目を凝らすと細い毛がパラパラとまばらに生えていた。
「あ、そうだ。少し前に、ブレスレットつけたときに気になってお風呂場で剃ったんだった」
「私はしばらく剃ってないや。ってか、腕毛の存在自体を忘れてた」
「そっかー。そうだよね、そんなもんだよね。私も冬は剃ってなーい」
「それで、腕毛がどうしたの?」
綾香は先日唯と交わした会話を二人に伝えた。中学一年生の娘が体毛を気にしていること。娘の悩みを聞いて、軽い衝撃を受けた自分がいること。
「だって私が腕の毛を剃り始めたのって……大学一年生の夏? だったかな? 中学なんて、せいぜい油断するとくっつきそうになる眉間の毛を剃り落とすぐらいだったのに」
「まあ、体毛は個人差あるから、もしかしたら綾香より唯ちゃんの方が気になる感じなのかもよ。ほら、私は、割と肌が青白い色してるからさ、生えてくるとなんか気になって、さーっと剃っちゃう」
肌の色合いも毛の生え方もそれぞれ違うよ、とみのりは腕を差し出し、綾香の手元と並べてみせる。綾香は複雑な表情でそれを見つめた。
「いや、唯のは正直、見ようと思わなければ見えないレベルの、ぱやっぱやの産毛で……あんなの剃るためにカミソリ滑らせたら皮膚がかわいそうだなって思うくらい」
「じゃあ、女子は無毛で当たり前、みたいなSNSの広告でも見たのかなあ」
「それはありそう。あとたぶん、画像加工も影響してると思うんだよね。SNSによってはもう画像加工が標準装備されていて、あらゆる人が産毛も毛穴も肌荒れもない、つるっつるの容姿になるものもあるじゃない?」
「今の子っぽい悩みだ……」
みのりのため息をきっかけに、会話を見守っていた圭子が口を開いた。
「二年くらいヨーロッパに駐在してたけど、向こうでは私たちみたいに体毛を気にしている人、あんまりいなかったよ。普通にみんな、キャミソールワンピだろうと平気でふわふわの腕毛を生やしてたし、意識もしてなさそうだった。日本人がちょっと体毛に対して神経質なんじゃない?」
「そう、きっとそれもあるの。神経質……っていうか、特に女子は指の毛すらみっともないみたいな圧があるよね。どこから来てるのかわかんない圧」
「コンプレックス商法が多いよね。あまり真に受け過ぎないよう、唯ちゃんに説明した方がいいと思う」
「説明はするけど……自分の体の特徴って、特に思春期は一度気になると気になり続けちゃうから、説明だけじゃ足りないかなーって。でも、医療脱毛は予算的にきついし、そもそも女子はすべすべで当たり前みたいな思い込みが唯にあるとしたら、まずそこからほぐした方がいい気もするし……。とはいえ、仲の良い友達の間で体毛を処理するのが主流になっているなら、ある程度合わせていけるようにサポートしてあげたい気もするし……」
んー、と鈍く喉を鳴らし、綾香はひたいを押さえた。
