(イラスト:平澤朋子)
大人になって離れて暮らしても、変わらず慈しみ、心配してくれた。お母さん、今日も私は幸せに生きています。寺前利香さん(仮名・奈良県・主婦・62歳)は、小学6年生の時「本当のお母ちゃん」と名乗る人からの電話を受け――。

もう二度とかけてこないで

うちには触れてはいけない秘密がある。そう感じたのはいつからだろう。

小学1年生のとき、突然友達に「りかちゃんのお母ちゃん、ほんまのお母ちゃん?」と切り出された。子ども心に、両親の結婚式の写真に私と兄が写っているのは不思議だった。物語では式のあとに赤ちゃんが生まれるのに。「あんたらは先に生まれとってん」という母の答えに、ふうん、と思った。

ほんまのお母ちゃんと、そうでないお母ちゃんってなんだろう。でも友達に何度も聞かれるようになり、ついに「ほんまのお母ちゃんなん?」と聞いた。

「誰がそんなこと言うたん! ほんまのお母ちゃんや!」

母の険しい顔や、誰が言ったのかを執拗に問う様子を見て、聞いてはいけないことを聞いてしまったと悟った。仮にほんまのお母ちゃんがいたとして、死んでしまったから、いまのお母ちゃんがいるのだろう。

6年生のある日、放課後に校庭で遊んでいると担任のK先生が探しにきた。「Mという人」から電話がかかってきている、という。

「もしもし、りかちゃん。私はね、あなたの本当のお母ちゃんよ。私が産んだのよ」

電話口からのまったく予期せぬ一言に、私は打ちのめされた。生きているんだ! 体が硬直し、心臓が早鐘を打った。冷たく凍えていく体と裏腹に、体の内側を熱いなにかが逆流していくようだった。

「住所言うから手紙書いてね。待ってるから、きっと書いてね」