現在放送中の、2026年度後期連続テレビ小説『ブラッサム』。石橋静河さん演じる主人公・葉野珠のモデルは、作家・宇野千代さんです。小説家として数々のベストセラーを生み出したほか、着物デザイナー、実業家、モデルとしても幅広く活躍した宇野さん。今回は、宇野さんが88歳から91歳のときに語り下ろされた言葉をまとめた『宇野千代 ちょっと自伝』より一部を抜粋してお届けします。
梶井基次郎と宇野千代
わたしが梶井基次郎さんに初めて会ったのは伊豆湯ヶ島で……だったと思うけれど。広津(和郎)さんか川端(康成)さんに紹介されたんでしょう。湯ヶ島へ最初に行ったときは尾崎士郎と一緒でした。川端さんが逗留していた湯本館に泊まったの。わたしはそれから幾度も湯ヶ島に逗留して小説を書いたり梶井さんに会ったりするわけです。
わたしたちが梶井さんとつき合い始めた頃には、もう結核の第3期だったそうです。それでも自分のことをちっとも語らない人でね、私は病気だなんて誰にも言わなかった。
わたしもちっとも知らないで、普通につき合っていたのよ。病気なら弱気で、大阪のご実家に早く帰したり何かすればよかったのに……。
梶井さんは、他人のことはとても優しく心使いをするけれども、自分のことは語らない、構わない、という特別の人でした。