『蒼羽さん事件』を上梓した呉勝浩さん(撮影:米田育広)
『このミステリーがすごい!2023年版』『ミステリが読みたい!2023年版』ともに国内編で1位、直木賞候補にもなった『爆弾』で、ミステリーファンのみならず、多くの読者の心をわしづかみにした呉勝浩さん。最新作『蒼羽さん事件』(中央公論新社)は、ひとりの女子高生が失踪し、予期せぬ場所で死体となって発見された謎を、主人公であるノンフィクション作家がルポルタージュ形式で解き明かしていくミステリー。今回の作品にかける呉さんの思いを聞いた。(取材・文:内山靖子 撮影:米田育広)

原点に立ち返り、疑似ルポに挑戦

今回の作品を書くにあたり、いったん原点に帰ろうと思ったんですよ。ここ数年、サスペンス色の強い『爆弾』シリーズやSF長編『アトミック・ブレイバー』といった、ストーリーの展開をガンガン進めていく作品を書き続けてきたので、この辺で、ストレートでオーソドックスな形式のミステリーを書いてみようと。

もうひとつ、今回トライした「疑似ルポ」という形式に、デビュー前からずっと興味を抱いていたというのも大きな理由になりました。ルポルタージュの形を借りたフィクション。事実と創作の境目を、あえてあいまいにしたフェイク・ドキュメンタリー的な作品をミステリーというジャンルで書いてみたいという欲求がずっとあったので。

ただ、その機会がないまま、雨穴さんの『変な家』や『変な地図』など、ホラーのジャンルでフェイク・ドキュメンタリータッチの大ヒット作が次々と出版されて。これは相手が悪い(笑)。ちょっと勝てそうにないなと思い、機会を逃してしまったんです。

それが今回、出版社からお話をいただいたときに自分の中でのタイミングが合い、トライすることができました。そういう意味でも、この『蒼羽さん事件』は僕の原点に立ち返った1作だと言えますね。