美しく滅びた東京がSNSで話題に
廃墟の風景になぜか心惹かれる人は多い。私もその1人。崩れ落ちた石壁、破れた天井からのぞき見える空、錆びた窓枠、どこにも届かなくなったまま中空に残された階段……失われた時間の物語が静かにそこにある。
そんな佇まいが好きな人は、この画集を飽かず眺めてしまうに違いない。私たちのよく知る東京の街が朽ち果て、植物と水に侵食されて廃墟と化した幻想の光景が、色鮮やかに繰り広げられているのだ。
表紙は新宿駅南口。見捨てられた駅舎のコンクリート壁を割って樹木が伸び、道路の裂け目から地下ホームへと澄んだ水が流れ落ち、電車は生い茂る草に覆われつつある。ページを繰れば、六本木ヒルズにも都庁にも人影はなく、東京駅はレンガ色の瓦礫となって夕暮れを思わせる光に溶け込み、折れた東京タワーはどこともしれない場所を指している。
いったい何が起きたのかはわからない。これは何かが決定的に終わった後に広がる情景であり、私たちは描かれることも語られることもない滅びの物語をさまざまに想像する。実際の廃墟を訪れたり写真を見たりするのとはひと味違い、未来の廃墟を夢想するのは不思議と心をざわめかせる喜びだ。現在の日々を何とか生き延びることに汲々としている私たちにとって、終末の風景に思いを馳せることはある種の救いになるのかもしれない。
東京幻想、とは作者であるイラストレーターのペンネーム。自然に埋もれていく廃墟の東京を描くシリーズがSNSで人気をあつめた。今年5月に刊行された本書も4刷2万部と、画集としては突出した売れ行き。
巻末に付されたインタビューで制作の背景が明かされているのもおもしろい。
『東京幻想作品集』
著◎東京幻想
芸術新聞社 2500円
著◎東京幻想
芸術新聞社 2500円