イメージ(写真提供:写真AC)
『怖い絵』シリーズがベストセラーになった作家・中野京子さん。中野さんが今回興味を持ったのは、科学では説明できない出来事や、人々が語り継がずにいられなかった不思議な話。最新刊『中野京子の西洋奇譚』より、妖精が写り込んだ写真を巡る騒動を紹介する。

ドイルもホームズ並みの推理力の持ち主?

世界一有名な私立探偵がシャーロック・ホームズだということに、誰も異論はないだろう。架空の人物にもかかわらず、ロンドンのベーカー街221bにはホームズの住まいだったとのプレートが設置され、観光客がわざわざ足を運ぶほどだ(かく言う筆者もその一人)。

ホームズを生んだアーサー・コナン・ドイル(1859〜1930)のもとへは生前ファンレターが殺到し、宛名がドイルではなくホームズだったことも再々だった由。作家と小説の主人公を完全に混同した者がいたわけで、そこまでゆかぬまでも、ドイルもホームズ並みの観察眼と推理力の持ち主だと思うのは自然かもしれない。

そのためドイルが妖精写真を本物と請け合った時、あれほど論理的思考のもとに数々の難事件を解決したドイル――実際には小説内のホームズ――なのだから、完璧な証拠がそろってのことだろうと、おおぜいの人に信じさせてしまった。

世にいう「コティングリー事件」である。