第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。村井さんは心不全という診断にショックを受ける。利尿剤の処方でむくみが取れたと大喜びしていたところ、ついに検査が始まった。苦しい経食道心エコー検査が終わったと思ったら、次は首と手首からカテーテルを入れ……疲労困憊で病室に帰ってきた村井さんを待っていたのは? 『兄の終い』の著者が送る闘病エッセイ第11回。
主治医のわずかな表情の変化を見て「マズイ」
看護師さんの押す車椅子で病室に戻ると、夫が待っていた。検査後に主治医から、現状と、この先の治療の説明が予定されていたのだ。
久々に会った夫は私の姿を見ると、「痩せたねえ!」と言った。私は、看護師さんがいなくなったのを確かめてから、「痛かったわ、今のカテーテル検査! 首だもん! 死ぬかと思ったわ」と夫に言った。夫は笑っていたし、私も笑ったが、心のなかでは、今回だけは笑えない検査だったと考えていた。喉には重苦しい痛みがしつこく残っていた。左手首に巻かれた止血帯がとても大きく見え、そして重かった。
30分後、主治医が小さなモニタをカートに乗せて、そのカートを押しながらやってきた。主治医は夫の姿を見ると、「こんにちは、ご苦労様です」と笑顔を見せ、直後に少し厳しい表情をした。私はそんな主治医のわずかな表情の変化を見て、「マズイ」と思った。お医者さんが一瞬でも真面目な顔をするときは、決まってよくないお知らせがあるときだ。それは子どもの頃からの経験でわかる。主治医はモニタを指しながら、笑顔を見せずに説明をはじめた。
「心臓のあたりの血管に狭窄などは一切なくて、とても良い状態でした。でも、心臓のポンプ機能が、私の予想よりも低下していたんです、残念なことに……」と主治医は言った。そして、「何も手を打たなければ徐々に悪化していくことは目に見えています。このままでは日常生活も厳しくなるかもしれません。手術が必要です」と言った。私は、やっぱりそうなのかと思いつつ、最後の望みをかけて、主治医に質問をした。