私は自分のものと思われる食パンを手に取って、改めてトースターに入れて、こんがり焼いた。今度は病室に戻らず、給湯室でパンが焼けるのをじっと待った。彼女だって、辛いことがあるんだよ、きっと……と思いながら。
翌日も、一番にトースターに放り込んだはずの私の食パンは、シンクの上に置かれ、冷たくなっていた。
自分自身が、とても心許ない
退院の日の朝、朝食が済むと、レンタルパジャマを脱いで、緊急入院した日に着ていた衣類に着替えた。そして驚いた。サイズがまったく合わなくなってしまっていたのだ。特にコートは大きく、重く感じられた。靴もサイズが合わず、脱げそうになってしまう。
鏡で自分の顔を見ると、相変わらず真っ青だったが、別人のように変わっていた。いや、変わったというよりも、元の自分の顔に戻っていた。子どもたちが驚くかもしれないなと、ふと不安になった。
急いでバックパックに荷物を詰め、背負ってナースステーションに向かった。看護師さんたちにお礼を言い、そしてエレベーターホールへ。途中、ベテラン&フレンズが座る待合室の前を通ったので、ぺこりと挨拶をし、エレベーターのドアが開くのを待ち、中に入ると1階のボタンを高速連打した。
会計で支払いを済ませ、病院の外に出た。久しぶりの外の空気は素晴らしかったが、足元がふらついて仕方がない。自分自身が、とても心許ない。背中のバックパックが重い。一歩進めば呼吸が乱れる。家まで戻ることが出来るだろうか、戻ったとしても、転院まで無事に暮らせるのだろうかと不安になった。
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』 村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売
手術を終えて、無事退院した村井さんを待ち受けていた生活は……?
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