第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。村井さんは心不全という診断にショックを受ける。利尿剤の処方でむくみが取れたと大喜びしていたところ、ついに検査が始まった。経食道心エコー検査に悪戦苦闘するうち、不安がひたひたとせまってきて……。『兄の終い』の著者が送る闘病エッセイ第9回。

前回●子どもの頃の恐怖に比べれば、経食道心エコー検査なんて…と思った話

想像していた以上に、状態は悪いのかもしれない

たいしたことはないだろうと高をくくっていた経食道心エコーがようやく終了したのは、私がエコー室に入ってから、ちょうど1時間後のことだった。ぐったりと疲れた私を、再び若い看護師さんが車椅子で病室まで戻してくれた。検査が我慢できないほど痛かったわけでも、苦しかったわけでもなかった。ただただ、疲れ切っていた。

エコー室から車椅子で戻してもらったというのに、ようやく病室のベッドに座ると、体がそのまま沈み込んでしまうかのように重かった。むくみが抜けて、体重もずいぶん減っていたのに、体が重くて仕方がない。人の多い外来に行っただけで、これほど疲れるものかと驚き、不安になった。それまで冷えなど経験したことがなかった自分の体が、温度変化に敏感になっている。もしかしたら、急激に体力が落ちてしまったのかもしれないと気づいたのはこの瞬間だった。カーディガンを着込みながら、強い疲労感が気になって仕方がなかった。

ベッドに横になりながら、エコー室で繰り広げられていた医師たちの会話を思い出していた。あ、ここだ、ここですね、なるほどシビアだ……と、彼らは口々に言っていた。自分が想像していた以上に、状態は悪いのかもしれない。きっと手術は免れないだろう。もちろん主治医は、最初から手術を見越して検査をしたのだろうが、患者の私からすると、わずかな可能性にもしがみつきたい思いだった。

消灯後、コソコソとインターネットで弁膜症の手術について調べ、一旦手術が決まれば、開胸術になることは薄々わかっていた。でた~、開胸~! と、やるせない気持ちになった。思い出すだけでも怖ろしい、あの痛い手術だ。開胸手術は、胸骨を縦にずばっと切り、切った胸骨を左右にぐいっと開いて、心臓にアクセスするというものなのだ。