第1回が配信されるやいなや、大きな話題になった翻訳家・村井理子さんの隔週連載「更年期障害だと思ってたら重病だった話」。47歳の時に心臓に起きた異変。村井さんは心不全という診断にショックを受ける。その上大部屋の隣の患者(通称「ベテラン」)の振る舞いに追いつめられ、個室へ移動する。ところが、担当医に処方された利尿剤の影響で、顔からむくみが消えたことに気づき、気分上々で病院の売店に赴いた村井さんは、小学校の同級生・橋本くんにしてしまった仕打ちを思い出す。『兄の終い』の著者が送る闘病エッセイ第8回。
胃カメラよりはちょっと大変な検査なんですが
突然体調を崩し、歩くこともままならなくなって駆け込んだ病院で心不全と診断され、緊急入院して1週間ほどが経過していた。投薬治療を受け、この時点で入院時よりはずいぶん快復していた私は、あろうことか、もしかしたらこのまま退院できちゃうのかもしれない、何ごともなかったかのように普通の生活に戻ることができるのでは? と考えはじめていた。
体が軽くなった、むくみが取れたと大喜びしていたこの時期であっても、術後2年が経過した今の私の状態に比べれば、お話にならないほどの重病人だったと思う。お願いだから勘違いしないで、まだまだ遠い道のりだからと当時の自分に言い聞かせたい。ようやく24時間の点滴と心電図が外れたような病人が、まさかそのまま退院できるわけがないのだ。
そんな脳天気な私をたしなめるかのように、病室にやってきた主治医は言った。
「状態も安定しましたし、検査をはじめましょう。まずは経食道心エコー検査です。胃カメラってやったことありますか? ……えっ、ない? そうですか。胃カメラよりはちょっと大変な検査なんですが、これをやらないと心臓の状況がわかりませんので、がんばりましょうね。これから忙しくなりますよ」
経食道心エコーとは、超音波内視鏡を食道に入れ、食道から心臓の様子を確認するといったものらしい。胸壁からのエコーより、詳しく心臓の様子がわかるそうだ。私の心臓がどのような状態なのかを知るためには必須の検査だし、大事な検査だと主治医は繰り返した。
「喉の麻酔もありますので、大丈夫ですよ! それではゆっくり休んでくださいね」