ハリー(撮影:村井さん)

最初は「意外にいける」と思った

検査はこの人がしてくれるのだろうか? それだったらうれしいな……なんて思っていたところに、がやがやと若い男性数名がエコー室に入ってきた。医師たちだった。私など、そこにいないかのように見向きもしてくれない。その男性たちに続くようにして入ってきた小柄な主治医が、にこっと笑って、「それじゃあ、はじめますね」と言った。

喉に麻酔を塗られ、ベッドに横たわると、エコー技師の女性が私の背中側に座って声をかけ続けてくれた。主治医は横たわる私の前に座っていた。ベッドの足元に設置されたモニタを、ベッドの周りに集まった若い男性医師たちがじっと見ている。主治医が「それじゃあ、はじめますね」と静かに言い、喉の奥に管が入れられていった。

最初は「意外にいける」と思った。麻酔が効いているのか、それとも管が細いのか、特に痛みもなく、違和感も少なく、どんどん奥に入っていったような気がした。これなら楽勝かもしれないと思った。しかし、管がどんどん奥に入り、そしてある地点に到達したとき、少し居心地が悪くなった。痛みは全くないのだが、圧迫感がある。圧迫感と異物感。この異物感は何かに似ているとしばらく考えて、ふと思い当たった。レゴブロックだ。大きなレゴブロックが食道に入り、ぐるぐると向きを変えながら動いているような感覚だった。痛くはないけれども、とにかくレゴブロックが動きまわっている……。涙目になりながら、早く終わって下さいと祈り続けていた。

医師たちは口々に、「あ、ここですね」「この部分だ」「なるほど……」と言葉にしていた。私は彼らの言葉を次々に記憶していきながら、絶対に忘れないようにと頭のなかで繰り返した。主治医は小さな声でブツブツと何か言いながら、両手で持った管を真剣な表情でコントロールしていた。そして、「ああ、ここだ……」と言った。医師たちの会話をしっかり聞いていた私は、薄々気づきはじめていた。私は多分、重症なのだと。
 

次回●7歳で開胸手術を受け、成長期を痛みとともに過ごした話

【この連載が本になります】
『更年期障害だと思ってたら重病だった話』
村井理子・著
中央公論新社
2021年9月9日発売

手術を終えて、無事退院した村井さんを待ち受けていた生活は……?
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