ガラス窓に映った自分の顔を見て、ぎょっとした
あの時に比べれば、経食道心エコーなんてたいしたことはないと思った。あの恐怖に比べれば、食道から心臓を見るぐらい、なんのことはないはずだ。主治医が病室を去ってから、猛烈な勢いで経食道心エコーについて調べまくり、ここは冷静になるしかないと思った。胃カメラに毛が生えたようなものだ。そこまで恐れることではない。そう無理矢理納得して、私は翌日の検査に備えるべく早めに就寝した。
翌朝、車椅子に乗せられ、私はエコー室に向かった。自分ではずいぶん元気になっていたと思ってはいたものの、エコー室に向かう途中で、ガラス窓に映った自分の顔を見て、ぎょっとした。検査のために廊下で座って待つ人たちの視線が痛い。
確かに、病棟から外来に来てみれば、私は立派な病人だった。自然光に照らされ、凹凸の目立つやつれた頰、色のない唇、なぜだかひっきりなしにずり落ちてくる眼鏡。顔がゲッソリしたために髪が突然増えたように見え、まるでサイズを間違えたカツラをかぶっているようだった。そのうえ、パジャマ姿で車椅子だ。車椅子は楽だが、乗って押してもらうには、まだ早い年齢だと焦る気持ちもあった。そのうえ、車椅子を押してくれていたのは、若い看護師の女性だった。「なんだか申し訳ないな……」という気持ちになってしまった。
エコー室に入ると、緊急入院当日に心エコー検査をしてくれた女性技師さんが笑顔で出迎えてくれた。彼女は私と同じぐらいの年齢で、いかにもベテランといった雰囲気。そのうえ、患者を不安にさせないよう明るく振る舞い、テキパキと仕事を進める女性だった。私が入院当日に検査を受けたことを覚えていてくれたようで「元気だった? 心配しなくていいから」と声をかけてくれた。ここでようやく、ほっとすることができた。