『こいわずらわしい』著◎メレ山メレ子 亜紀書房 1300円

 

恋愛を語って湿っぽさなし

恋はもうめんどうだ。そんなエネルギーがあるなら、ほかのことに振り向けたい。でも、仮にうっかり激烈な恋心におそわれてしまったら、その時はしかたない。とことん振り回されたり消耗したりするのであろう。

それは、ある年齢になった女性の言うこととしてはよくわかるのだが、著者はまだ30代。彼女に何があったのかと思ってこの恋愛エッセイを読み始めたが、いちいち唸らずには読みすすめられないぐらい内容が濃くて嬉しい。〈恋愛、やはり逆上と距離が近すぎる〉とか、〈恋愛は興味のある人だけが傷つく覚悟込みで参加すればいいエクストリームスポーツ〉とか、切れ味のいいフレーズがばんばん投げ込まれてきて小気味いい。

著者は九州出身。男尊女卑の風土に反発した母親は娘たちに厳しく勉学を仕込み、著者は〈男尊女卑以前に勉強ができないと人権がなかった〉ような私立高校の進学コースを経て東京の大学に進み、大都会で働く「自立した女性」になった。でも、「女は男を立てるもの」という価値観にさらされたのは、九州ではなく東京の大学でだったという。

そう、東京の大学は、全国津々浦々の男尊女卑のバリエーションすべてが温存されがちな場だとわたしも思う。男女の役割や恋愛と性の問題をクールに考えるアタマは、逆境において鍛えられたものなのだ。

男性と親しくなり、同じ部屋で寝起きするようになっても、揺るがぬ関係が確立したわけではない。むしろ距離が近くなるほど新たな難しさが次々にわき出てくる。それを嘆くのではなく、理知的な言葉ですっぱり斬る。男を攻撃してうっぷんを晴らすこともしない。恋愛を語っているのに湿っぽさが全然ない。これはたいへんな恋愛批評家を発見してしまった。