10年ほど減少傾向にあった自殺者数が増加に
「『死のうとするくらいなら、死んだつもりで頑張ればいいのに』と言う人がいます。でもそれは当事者の心理状態を全然わかっていない意見だと思うのです」と言うのは、都内で自営業を営むシングルマザーの山内亮子さん(53歳・仮名)だ。
山内さんは自動車事故を発端にさまざまなトラブルが重なって思い悩み、数年前から何度か自殺を図っている。
「実行するのはいつもふとした瞬間のことでした。いろいろな問題が積み重なって、あるとき急に、楽になりたい、自分なんていないほうがいいという気持ちが湧き上がり抑えられなくなって……」
1年以上続くコロナ禍の中、この10年ほど減少傾向にあった自殺者数が増加に転じた。2020年は2万1081人で、19年の2万169人を912人上回る。なかでも目立つのが女性の急増だ。前年と比べて男性が23人減少したのに対し、女性は935人増加している。
NPO法人自殺対策支援センターライフリンク代表の清水康之さんは、状況をこう分析する。
「新型コロナウイルス感染拡大以降の自殺率を引き上げているのは、女性と若年層です。なかでも専業主婦を含めた無職の女性、独居よりも同居人のいる人の増え方が目立っているのが特徴です」
感染が広がり始めた初期は社会全体に防衛的な意識が高まり、むしろ前年の同時期よりも自殺者が少なかった。しかし状況が変化する中で、徐々に社会的立場の弱い人にほど負担が重くのしかかっていった。この数字はその影響が如実に出た結果ではないかと言う。
「女性に多い非正規労働者の失業と貧困。子育てや介護をする環境で孤立状態が深まったこと。閉鎖的な空間での家族関係の悪化やDV(家庭内暴力)など、さまざまな要素が挙げられます。以前からあった女性を取り巻く諸問題が、コロナ禍によって改めて浮き彫りになったとも言えるでしょう。そこに有名人の自殺報道が続いたことも引き金のひとつとなりました」
清水さんが指摘するように、6月11日に閣議決定した「令和3年版男女共同参画白書」ではコロナ下で「女性(シー)」と「不況(リセッション)」を合わせた「シーセッション」と呼ぶ雇用悪化が進んでいると記載された。