イラスト:網中いづる
ありえない、でも確かに感じる。突然わが身に起こった奇怪な現象。そこに込められたメッセージとは――。旧家に嫁ぎ、夫や嫁ぎ先のプレッシャーで心身ともに追い込まれた千田さん(65歳・仮名)の前に現れたのは、カラスたちだった。命を救ってくれた彼らの行動に今は感謝して…

盆や彼岸は「おさんどん」で大忙し

嫁いで41年。毎年お盆の前になると夫は決まって私を怒鳴りつけます。「お前はお盆の準備を何もしない」と。

都会の核家族で育った私は、24歳でお見合い結婚をしました。嫁ぎ先は明治生まれの大姑、大正生まれの姑のいる田舎の農家。夫はそこの跡継ぎの長男でした。

私はお盆やお彼岸の風習を知りませんでしたが、優しくて苦労人の大姑、気性の荒さが夫とそっくりな姑にひとつずつ教えてもらいながら、なんとかご先祖様をお迎え、お送りするしきたりを覚えました。

この地方では、お彼岸とお盆の1週間、盆棚という木枠を組み立てた棚に笹や紙垂を飾り、ほおずき、禊萩などをお供えして、仏様をおまつりします。毎年、子どもたちとおまつり感覚で楽しみながら準備をしたものです。

来客時に天ぷらやうどん、ぼた餅を振る舞うのも、人が好きなので決して苦ではありませんでした。今では子どもたちも成人し、大姑や姑は仏様となりました。わが家に来るのは義姉一家のみとなりましたが、姑が健在の頃、お盆は一日じゅう台所でおさんどんに明け暮れていたのです。

一方、面倒くさがりな夫は、力仕事の盆棚の組み立てが大嫌い。「お前は何もしない」と怒鳴るのは、盆棚の組み立てができない私への八つ当たりです。もう姑もいないし、今の時代、盆棚を省いて、お供え物のみでもよいように思いますが、世間体を気にする夫には、勇気がありません。