写真を選んでいる末井昭さん。1983年(写真提供:末井さん)
編集者で作家、そしてサックスプレイヤー、複数の顔を持つ末井昭さんが、72歳の今、コロナ禍中で「死」について考える連載「100歳まで生きてどうするんですか?」。母、義母、父の死にざまを追った「母親は30歳、父親は71歳でろくでもない死に方をした」が話題になりました。第18回は、「自宅で出来て高収入」です。

第17回●「ぼくが安楽死に反対しながら、残された命を全うしようと思う理由」

「自宅で出来て高収入」という文字に目が…

新型コロナウイルス感染拡大で、最初の緊急事態宣言が発令されてから、ほとんど家から出なくなりました。朝起きて風呂に入り、簡単な朝食を作って一人で食べ(美子ちゃんは2時間ほど遅く起きます)、コーヒーを飲みながら新聞のめぼしいところを読み、仕事部屋で原稿を書き、美子ちゃんが作った昼食を食べ、少し休んで再び原稿を書き、疲れてきたらベランダで猫を撫でたりして、ついでに洗濯物を畳み、夕方になると散歩に出かけ、夕食後はテレビの報道番組をだらだら見るといった毎日を送っているうちに、あっという間に1年半が経っていました。

最初の頃は一日中家にいると何か落ち着かなかったのですが、だんだん慣れてきて、「これは、若い頃に自分が望んでいた生活ではないか」と思ったのでした。

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もともと人付き合いが苦手で、小学生の頃は漫画家になりたいと思っていました。漫画を描くのが好きで、漫画家なら人と会わなくてもいいと思ったからです。

中学生になって、漫画で生活するのは金銭的に難しいということがわかってきて、漫画以外に人に会わなくてもできる仕事はないものかと思っていました。ある時、雑誌を見ていたら、「自宅で出来て高収入」という文字に目が止まりました。なんと魅力的な言葉でしょう。

それは孔版(ガリ版のガリ切り)の通信講座で、早速その講座を受講しました。コピー機がない時代だったので、ガリ版の需要は確かにあったのですが、収入にはまったく結びつかないような気がして止めました。

同じような広告に釣られて、早稲田式速記の通信講座も受講しました。特殊な技術ですから高収入になるかもしれないと思ったのですが、その技術をどこでどう生かして高収入を得るのかということは書かれていませんでした。何となく騙されたような気持ちで、これも止めてしまいました。