イラスト:タムロアヤノ
刺激の少ない穏やかな毎日は、幸福なように思えますが、脳にとってはあまりよい環境とは言えません。面倒、億劫という気持ちをやる気に変える方法を、専門家が伝授します(構成=島田ゆかり イラスト=タムロアヤノ)

脳の神経細胞は何歳でも活性化する

年齢を重ねると、「何をするのも面倒」「新しいことは億劫」と思うようになる人は少なくありません。私はこれを「感情の老化」と呼んでいます。一方で、いくつになってもアクティブな人、パワフルに挑戦し続ける人もいる。この差は一体、何でしょうか。

これは、脳の司令塔とも呼ばれる「前頭前野」の機能低下が原因の一つと考えられています。前頭前野は額のすぐ後ろにあり、人間だけに備わっている高度な活動を担う部位。思考や感情のコントロール、意欲、計画、注意(力)、作業記憶(ワーキングメモリ)などを司っています。

前頭前野の機能低下は加齢によっても起こりますが、脳をあまり使わないマンネリ化した生活、言い換えれば刺激のない生活で機能低下のスピードが加速し、「感情の老化」が起こるのです。逆に、脳をよく使う人はあまり低下が見られません。

脳を使うか、使わないかによる機能低下は、実験でも明らか。高齢のマウスを遊び道具が何もないカゴに一匹だけ入れた場合と、遊び道具があるカゴに数匹入れた場合では、何の刺激もないひとりぼっちのマウスの脳の神経細胞はどんどん退化していくことがわかりました。逆に、仲間と楽しく遊べる環境にいたマウスは成長していたのです。これは、神経細胞が年齢に関係なく刺激によって活性化することを示しています。

【図】神経細胞による情報伝達のしくみ

人間の脳の神経細胞は地球25周分くらいの長さがあると言われていますが、1本の線になっているわけではありません。回路が1本だと、どこかが切れたり詰まったりしたときにすべてがダメになってしまうからです。1ヵ所がダメージを受けても別の神経細胞が成長できるように、ニョキニョキと周りに足を伸ばすような形をしています(樹状突起)。

これこそが、刺激によりどんどん神経回路をつなげ、広げていけるポイント。神経回路が強化されたり、広がったりして多くの回路ができると、情報の伝達がスムーズになる。つまり脳機能が活性化するわけです。

道路をイメージするとわかりやすいでしょう。交通量が多い道路はどんどん拡張され、新たにバイパスができますよね。一方、誰も通らない道は、手入れもされず草が生い茂って、やがては劣化し通れなくなる。人間の脳でも同様に、使えば回路が強化され広がり、使わなければ衰えるということが起きています。マンネリ化した生活、社会との接点が希薄な刺激のない日々は情報量が乏しく、神経細胞を退化させてしまうのです。