今注目の書籍を評者が紹介。今回取り上げるのは『あのこは美人』(フランシス・チャ:著/早川書房)。評者は女優で作家の中江有里さんです。

ああ、あの顔だったらもっとうまく生きられるのに

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』は、半地下暮らしの一家と豪邸暮らしの一家の対比をダークなエンターテインメントに昇華した傑作だった。映画もさることながら、韓国の小説でも激しい格差が描かれる。

本書は賃貸アパートで暮らす女性たちの群像劇。決して裕福とは言えない彼女たちは、ルッキズム(外見至上主義)、経済格差、学歴差別とさまざまに分断されている。

主人公のひとり、キュリはルームサロン(客を酒とカラオケでもてなす個室形態のクラブ)嬢。

そして新進気鋭のアーティストのミホ。

発話ができないアラは、美容師の仕事に支障をきたすことも多い。

階下に住むウォナは流産を繰り返し、何度目かの妊娠をするが、経済的に苦しい。

この四人の語り手によって物語は進行し、厳しい現実は複雑に絡み合う。美容整形大国とも言われる韓国。ルームサロン嬢のキュリは他業種の女性に値踏みされ、アラは美しいアイドルに夢中。ミホは裕福な学友との格差を知り、ウォナは妊娠を理由に職場を追われそうになる。他者の視線と価値観に晒されて、傷つき、現実から逃げ出したくてもそうもいかない。

銀のスプーンをくわえて生まれてきた者には想像もできない、彼女たちそれぞれの地獄。美貌に憧れるのは、美しくなりたいという願望だけでなく、自らの人生を変えたいという心の表れだろう。

そのために必要な金と(医師に通じる)コネは簡単に手に入らない。職業、住む場所、パートナー……分断された彼女たちは連帯し、シスターフッドを発揮する。

不幸は同じではないし、幸せの形も違う。「美人」も人の数だけ定義がある。

違う境遇にいても理解しあえることで、人は強くなれる。粘り強い彼女たちの姿に励まされた。