「高齢者も若い人も、普段心の中で思ってはいるけれど言えないことを全部言って、ぶつからせたらスッキリするだろうなと思っていたのです。」(撮影:宮崎貢司)
2022年に松坂慶子さん主演でドラマ化された、70歳の主人公が自分の人生を振り返り、今をどう生きるかを考える『今度生まれたら』、エリートサラリーマンの定年後の人生を書いた『終わった人』、おしゃれを意識する78歳の女性を主人公にした『すぐ死ぬんだから』など、老年期に関する話題作を次々と発表している内館牧子さん。最新作では《老害》をテーマに、三世代それぞれの姿をきっちり書きたかったと語ります。書きながら登場人物と自分を重ね合わせたりもしたという内館さん。物語に込めた思いは――(構成:篠藤ゆり 撮影:宮崎貢司)

老人と若者たちの群像劇

《老害》をまき散らす老人たちと、それにうんざりしている若年者。両者の活劇のような群像劇を書けないものかと、かなり前から考えていました。高齢者も若い人も、普段心の中で思ってはいるけれど言えないことを全部言って、ぶつからせたらスッキリするだろうなと思っていたのです。

決して若くはないけれど、介護は必要としていない。そんなお元気な高齢者の方々には、私も以前、悩まされたものです。自慢話や説教や講釈を垂れるのが好きで、何度も同じ話をする。若い人は誰だって「まいったなぁ」と思いますよ。それに孫自慢の垂れ流し。

でも、若年者は耐えて聞く。「もうやめて」と言ったら、老人いじめのようで後で落ち込みますから。老害者をお守する世代のストレスはかなりのものです。

困ったことに、老害の人たちは、自分がそうであることに気づきません。一方、どこかで自分は若年層から嫌われていると感じてもいるようです。老人を婉曲に別枠に入れる世間にも気づいています。そして「歳をとるのはそんなに悪いかッ」という心の叫びもある。

私自身、歳を重ねるなかで、そうした当事者たちの気持ちが想像できるようになりました。たとえばうちの母は、亡くなる直前まで『婦人公論』や『文藝春秋』を読んでおり、世界情勢から経済まで語れました。

だから孫以外に「おばあちゃん」と一般名詞で声をかけられるのはイヤだったんじゃないかしら。母は無名の一市民でしたが、現役時代に何かしらの肩書を持っていた人は、自分の過去の実績や苦労を認めてほしいと考えたとしても当然です。

実際、過去の肩書をずらっと書いた名刺を持っているご老人を私も何人か知っています。なかには町内会の副会長といった役職まで書いている方も。ここまでしても、やはり存在を認めてもらいたいのは、現実生活で認められてないからだと思いますね。