なぜ「あらかじめ75歳以降の生き方を考えておくことがとても重要」なのか(写真:イワモトアキト)
ライフ&キャリア研究家で、25万部超えのベストセラー『定年後』著者・楠木新さん。楠木さんはこれまで500人以上の高齢者に、10年以上の取材を積み重ねて「100年時代を楽しみ尽くす」指針や方策を研究してきました。その楠木さんによると、人は概ね75歳前後から、医学的、経済的、社会的に人生のステージが大きく変わるそう。さらに言えば「だからこそ、あらかじめ75歳以降の生き方を考えておくことがとても重要」とのことで――。

私の“メンター”の生き方

もう30年以上も前から私にとってメンター(優れた助言者)ともいうべき存在の人がいます。Hさんは、私の会社員当時の先輩で、現在は73歳。生命保険会社で55歳まで勤め、退職後は保険関係の仕事で起業して活躍しました。

彼は事業が一段落すると、60代後半から自宅で母親の面倒を最後まで自分でみると決めました。それまで料理もほとんどしたことがなかったのですが、毎度の食事もすべて彼がつくり始めます。レシピを見ながら献立を考えるのも楽しくなってきました。

同時に、彼自身が「70代以降の老後をどのように過ごせばよいか」を母親の介護をしながら考えたそうです。

介護は、母親が80代後半から92歳になるまで続きました。

小さい頃から何でもできると思っていた母親が徐々に弱っていく姿を目のあたりにするのは辛くて、やりきれない気持ちになることもありました。そして「やはり人は、最後は朽ちていくのだ」というのが最終的な実感だったそうです。