子供が感じている精神的幸福度が、先進国38カ国のうち37位とされた日本(ユニセフ「レポートカード16」の「子どもたちの幸福度ランキング」より)。現実を見れば、子供のうち7人に1人が貧困、15人に1人がヤングケアラー、小中学生の不登校は24万人以上といったデータもあるなど、多くの子供たちが息苦しさに覆われているのは事実かもしれません。作家の石井光太さんはそんな子どもたちに向けて、「君たちの親世代の人たちが働かされている状況を知ってほしい」といいますが――。
なぜ君たちの親世代は共働きをする必要があったのか
考えなければならないのは、社会変化が家族の生活にどのような影響を及ぼしたのかという点だ。これまでおよそ半世紀にわたり、世帯の種類としては最も多かった「核家族」だが、それが成り立つには、大きく3つの条件がある。
1つ目が、企業が十分な給与と生活環境を保障することだ。家族にとって安定的な収入は生活の基盤となる。定年まで十分な給料を保障してもらえれば、多少の困難があったとしても、子供を育て上げて独立させることができる。
2つ目が、国が福祉によって家族を支えることだ。人は不慮(ふりょ)の出来事によって病気になったり、障害を負ったりすることがある。祖父母の介護が必要になることもあるだろう。そんな時に社会福祉がきちんと機能していれば、家族はそれを乗り越えられる。
3つ目が、企業や国の支援では足りない細かなところを、親族や友人といった近しい存在が補うことだ。福利厚生や法律はかならずしも完璧なものではない。実際にはちょっとしたところで手を借りなければならなかったり、相談に乗ってもらったりすることが欠かせない。そうした細かなフォローがあることが重要だ。
核家族は、大家族に比べればとても小さく脆弱(ぜいじゃく)だが、この3つの条件がそろっていれば、そこそこの困難なら撥(は)ねのけることができる。
だが、90年代以降の格差の拡大は、こうした核家族のあり方を根底から揺るがすこととなった。企業が十分な給与を払うことができなくなり、年功序列、終身雇用制度が崩れたのだ。
そんな状況下で、親世代は1人の収入では生活が立ち行かなくなり、共働きをする必要性にかられた。