演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が聞く。第21回は俳優の笹野高史さん。コクーン歌舞伎に勘三郎さんに誘われて出演するようになった笹野さん。映画『武士の一分』では、山田洋次監督に叱られ続け、落ち込んだと話します――(撮影:岡本隆史)
アングラ出身の役者が口上にまで
渋谷のシアターコクーンで行われるコクーン歌舞伎に初めて笹野さんが登場するのは、『盟三五大切』のますます坊主役。私が1階の角席(かどせき)に座っていたら、通路に現れた笹野さんに、いきなり私とその横の角席の人が手を取られ「バンザイ」させられた。
――そうそう(笑)。串田さんと勘三郎さんが、歌舞伎をもっと若い人に、という趣旨で始めたコクーン歌舞伎。僕は自由劇場時代、『ハムレット』だと墓掘り、『マクベス』だと門番とか、ワンシーン出てワッと笑わせる役どころが多かった。
それを勘三郎さんはご存じで、「ますます坊主、笹野さんにぴったり!」なんて言われて、うまいこと乗せられた。そのうち主役の源五兵衛の父、了心役の方が病気休演になって、その代役が回ってきた。
これは台詞廻しから仕草からすべて歌舞伎ですから、うまくいくわけがありませんよ。案の定酷評で、もうひどかったですね。「今回の失敗は現代劇の笹野を出したことにある」って。もう恥ずかしいやら申し訳ないやらでね。勘三郎さんはそれ書いた方に電話して、大喧嘩になったし。