「この犬のバッグは母の形見。母は入院中も肌身離さず可愛がっていたの」(撮影:洞澤佐智子)
85歳のいまも個展や作品制作で多忙な日々を送っている、田村セツコさん。幸せも寂しさも大切なものとして受け入れる、〈セツコ流〉の人生哲学とは(構成:山田真理 撮影:洞澤佐智子)

<前編よりつづく

老老介護で元気をもらえたわけ

そんな仲のいい家族だったから、介護が必要になったときは、自分のできることはやってあげようと思いました。それは父の看取りに心残りがあったからでもあります。父は脳梗塞で倒れてから6年間、チューブにつながれて寝たきりのまま病院を転々として亡くなりました。

そうした父を見ていた母は、91歳で大腿骨を折って入院したときに、「病院にずっといるのはイヤ」ときっぱり。私はお医者様と入院の相談をしていたんですよ、母の枕元でひそひそと。

そうしたら母が耳ざとく聞きつけて、「セツコ、私は自宅!」と言って、私の手をぎゅーっと握ってきたの。そうまでして頼まれたら「わかりました、OKです」と言うしかないでしょう。(笑)

周りはみんな、大反対でした。母が倒れた時点で、私は70歳近かったから「老老介護」になってしまうし、実家にはパーキンソン病で寝たきりの妹もいたので、「1人で抱え込んだら共倒れになりますよ」と心配されたのです。でも、何ごとも経験してみないとわからない。「これも人生の冒険だわ」と思って、実家で2人と同居を始めました。