AI時代に必要な力
和田 おっしゃる通りで、人間はもう、AIの速度と量には敵いません。となると、若宮さんの指摘の通り、AIとは異なる観点を持ち込まなければ、ダメな時代だということです。
ひとつ例を挙げますと、ポピュラーソングの作曲があります。いままでは、イントロやサビを10個から20個用意して、一番いいものを選んで組み合わせていたそうです。それがヒットの秘訣(ひけつ)だ、なんて話もあったんですが、AI時代はAIがその素材を用意してくれます。10個といわず、1万個用意するのも簡単でしょう。
そうしますとね、作曲家の役割は「いい曲を作る」ということではなく、「いい曲を選ぶ」ということになるかもしれないわけです。
若宮 目利きの力ですね。
和田 日本人にはなぜか強固な強迫観念があって、「手作りがいい」とか「最初から最後まで自分でやるのがいい」と思い込んでいる人がいまだに多いんですが、もうそういう時代じゃないんです。「最後に選ぶ」という感性の勝負になる。
何でも自分でやらなきゃいけない、となると、高齢者は身体的にもハンデがありますが、「選ぶ」ということだけなら、高齢者のハンデはなくなります。
※本稿は、『和田秀樹、世界のマーチャンに会いに行く』(小学館)の一部を再編集したものです。
和田医師が日本の高齢者の「ロールモデル」と敬愛する、世界最高齢プログラマーの若宮さんと緊急対談。超高齢社会ニッポンの大問題や新たな高齢者像について語り合います。
出典=『和田秀樹、世界のマーチャンに会いに行く』(著:和田秀樹・若宮正子/小学館)
和田秀樹
精神科医
1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。立命館大学生命科学部特任教授。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって、高齢者医療の現場に携わっている。主な著書に『年代別 医学的に正しい生き方』(講談社)、『六十代と七十代 心と体の整え方』(バジリコ)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『心が老いない生き方 - 年齢呪縛をふりほどけ! -』(ワニブックスPLUS新書)など。
若宮正子
世界最高齢プログラマー
1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)へ勤務。定年をきっかけにパソコンを独自に習得し、同居する母親の介護をしながらパソコンの楽しさにのめり込む。1999年にシニア世代のサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画し、現在も副会長を務めるほか、NPO法人ブロードバンドスクール協会の理事として、シニア世代へのデジタル機器普及活動に尽力している。2017年、雛人形を正しく配置するiPhone用のゲームアプリ「hinadan」を開発し、配信。米国アップル社による世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待。18年には国連総会で基調講演を行うほか、政府の「人生100年時代構想会議」をはじめ「デジタル社会構想会議」などに委員として参加。ICTエバンジェリスト、デジタルクリエイターとして活躍する。