偶然の中で知り合う他人も、未知の壮大な世界そのもの
残念ながら数年前に谷口さんはお亡くなりになったが、ルッカであのご夫妻と再会することが無かったら、私が谷口さんとお友達になることもなかったかもしれない。
その他にも乗り物で出会った人との忘れ難いエピソードはたくさんあるが、今はむかしと違って、長距離移動の飛行機にも各座席に映画を視聴できるスクリーンが付くようになったし、持参の書籍やら電子機器でいくらでも時間潰しができるから、わざわざ隣や前に座っている人と言葉を交わすなんてことも殆ど無くなってしまった。
でも、完全な偶然の中で知り合う他人というのもまた、見知らぬ土地への旅と同じく、自分の人生観や生き方を変えるかもしれない要素を持った、未知の壮大な世界そのものなのだということを、自分の人生を振り返ると痛感させられるのである。
※本稿は、『扉の向う側』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
『扉の向う側』(著:ヤマザキマリ/マガジンハウス)
自分に見えてる世界なんてほんのちっぽけ。地球の片隅で凛と生きる人たち――。「ku:nel」人気連載エッセイ、オールカラー画で待望の書籍化。