20年ぶりに再会を果たして
こんなこともあった。
フィレンツェでの留学中、日本からイタリアへ戻る飛行機で隣に座った日本人の夫妻と親しくなり、日本に滞在している間に何度かお会いしたこともあったが、貧乏暇なしの慌ただしい生活に振り回されているうちに、いつしか彼らとの連絡も途絶えてしまった。
それから 20年以上の月日が経って私は漫画家になり、イタリアで自分の作品が翻訳されたのを機にルッカという街で開催された漫画の祭典に出かけることとなった。会場で、音信不通になっていた夫妻と20年ぶりに再会したのである。
この祭典にメインゲストとして呼ばれていたのが漫画家の谷口ジローさんだったのだが、この夫妻のご主人は私と飛行機で知り合った頃、谷口さんの『坊ちゃんの時代』という本の編集者だった。
ふたりとの再会を機に私は谷口ジローさんとも親しくなり、日本への帰国時にはご一緒する機会が何度もあった。日本で漫画の実写映画化にともなうトラブルに疲れて漫画を辞めたくなった時も、谷口さんが静かに励ましてくださったことで、私は今でも漫画を描き続けることができている。